エスカレーターの片側空け問題は、いくら危険性をアナウンスしても禁止表示を掲げても、一向に解決しません。埼玉県はついに条例で禁止する手段に出ました。本欄でも何度か取り上げてきましたが、現在多くの人は危険性よりも急ぐ人の利便を優先する悪弊を知りながら、とりあえず同調しているうえに、そもそも歩いた方が多くを運べると思い違いされているのも原因だと考えられます。実際は歩くと前後の間が空くため輸送力が落ちるので、乗り場に人が滞留している訳です。果たして、赤信号をみんなで渡ってきた状態は変わるのか、すぐに変化したらしたで、少し怖い気もしますが。

 COVID-19の第5波が収束に向かいながらも、大方の専門家は第6波が必ず来ると言い、朝刊には「気温が下がり、室内の換気がおろそかになりがちな冬場は昨年度も第3波に見舞われた」とありました。本当にそうでしょうか。
 感染者数を振り返ると、全国的には第3波のピークは1月10日前後、厳冬期には感染者数が下がり続け、春暖かくなるにつれ再び上昇に転じました。もしも記事の通りだとしたら、人口が同程度の都市は寒い地域から順に感染拡大が起きそうですが、北海道では11月下旬がピークで、青森・秋田・岩手や同じ寒冷地長野も南国宮崎も概ね全国傾向と一致していました。寒くなると夏のようには換気できないので、記者がそこに注意喚起したい気持ちは解りますが、数字は「冬場は第3波に見舞われた」とは言えないことを示しています。
 また、人流量と感染者数の相関性が高いかのように報じられていますが、これも携帯電話の位置情報によるのか、駅の乗降者数を元にしているのかさえよく解りませんし、大目に見ても、人出が増えた1~2週間後に感染が拡大していたりその逆だったりしている風には見えません。つじつまが合う数字を拾えた時にだけニュースにして、感染症についての一般論を垂れ流しているように疑われるのです。
 今回の収束では、感染者数が減り始めた当初に、東京で1日千人をもし切るとしても11月頃だろうと言われていながら、早くも9月24日に週平均で500人を下回りました。なぜこんなに勢いよく減少しているのかについて、ワクチンの広まりだけでは地域や年代による接種率の違いから説明できないため、田村厚労大臣は「理由がよく分からない」と述べました。「波がどうして起きてどうして収まるのかは、今の所解らない」と率直に告白することは、専門家や指導者としての正しい姿勢でしょう。
 他方、昨春「8割おじさん」として有名になった西浦博教授は「人の接触を8割減らさないと最大42万人死ぬ」と予測したように受け止められていますが、正しくは「何もしなければ最大42万人死ぬ可能性があるので接触を8割減らそう」でした。私も二つの違いをきちんと区別して考えねばならないと思い直しました。
 人には見たいものだけが見えて、信じたいことを信じる傾向が非常に強いので、常にそこを自覚して、数値や事象を捉えたいものです。それによって、例えば子どもについて重視すべきリスクは何なのかや、自死する女性が増え続けている状況や、緊急事態法が必要なのかどうかなどなどを、少しでも見極められるようになるのだと思います。

綾崎幸生(あやざきゆきお)=会顧問
[会報『くさぶえ』 21年10月号掲載]