あしたのむこうがわ <73>
多様性を支える科学的・多面的な物の見方
綾崎幸生

 会創立「40周年記念の集い」には、懐かしい人も初めての人も遠くからも、まさに老若男女、大勢の方が出席くださいました。あるOBがリーダーとして初参加した時に受け持った班にいた“子ども”が父親としてそこに来ており、30年近くもの時を経た劇的な再会ハプニングがありました。よくもお互いに覚えていて気づいたものだと驚きますが、彼らにとってそれほど特別な夏の数日間だったということでしょう。
 これまでのお支えに篤く熱く感謝しつつ、会を構成する人々が「子どもに本当に良いものを」の一点で結集しながら、多様性にあふれていることを実感した日でもありました。
 この秋は、東京オリンピック開催50周年が話題になっていました。思えばそれから約十年後、そのメイン会場の直近、千駄ヶ谷でアルプス子ども会が産声を上げていた訳です。『三丁目の夕日』も含め、50〜60年前を「あの頃は良かった」という雰囲気で報じられることが相次ぎましたが、警察庁の犯罪統計データを調べると、実は戦後の少年犯罪件数のピークはまさに1964年でした。少年人口が多かったこともありますが、成人を含め、この時代は犯罪率が現在よりもずっと高く、何倍もの凶悪事件が起きていた物騒な時代だったのです。
 それをまじめに受け止めれば、「近頃は治安が悪くなったというのは、真っ赤な嘘である」と言うしかありません。「最近の若者はマナーを知らずルールを守らない」などというのも、元々マナーは社会の変遷と共に変化し、徐々に身につけるものであり、近年の同調圧力によるルールの守られ方を見れば、普段ほとんど若者と接していないであろう人々の妄言だと断じざるを得ないのです。
 このようなことを調べた理由は、秋期リーダー研修会で「科学的・多面的な物の見方」を取り上げて、その重要性をリーダーたちに伝えるためでした。それは私たちがいつも重視している「多様な生き方の認め合い」や「社会的弱者への意識」を支えるために必要な力であり、バイアスのかからない状態で物事を判断したり進めたりする際に、発揮されます。「合理性」とも言い換えられるそうしたものの考え方は、つまるところメンバーの上下序列や声の大小、経験の多寡、力の強弱によらない対等な人間関係の中で思考するうえで、必要不可欠なものです。
 具体的にはそれが、安全・健康管理や行事の適切な進行、性別役割への固定観念、自らの年齢や体重を不必要に隠すことが歳を取っている人や太っている人への偏見につながること、血液型による性格傾向や性同一性障害者への誤解、さらにはエスカレータの片側空けが弱者に負担を強いていることなどなど、さまざまな事象を捉えた問題意識に結びつきます。
 はからずもSTAP細胞問題は、日頃科学的にものを見ているはずの先端研究者でさえ、科学的態度を保持するのがとても難しいこと、そして有能な教授が自死を選んだ悲劇は、自らにとって不都合なことや人に正面から向き合う経験の大切さを、改めて教えてくれました。
 今後もずっと、多面的な検討を経た研修を実施することで若者を育成し、多様な人々が集う会をめざし続けます。
あやざきゆきお=会代表
[機関紙『くさぶえ』 14年12月号掲載]
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